遺族
公衆の往来で人が呻いて倒れても問題ないよう、囚人が街に繰り出している時は常に関係者が監視しており、山下の死も世間にバレないように手際よく処理された。
その夜、肥田は愚かしい行為を当然に責め立てられ、山下の事情を知っている一人が怒りを抑えられずに暴力を振るった。
しかし犯罪者同士のイザコザはルール違反とみなされず、それが分かると暴力の連鎖が一気に繋がりそうになったその時、止めようとした弾みで楠木は懐の大金をぶちまけてしまった。

その金は所長から生活費として一人10万もらっていたもので、隠していた理由も信用してないからだとバカ正直に白状した。
そして自分たちで感謝し合っても、AIは善行だと判断しないことも分かった。
とにかく一人10万というそれなりの金額は、良くも悪くも彼らに影響を及ぼすことになった。
二日目も銘々で街に繰り出して感謝されそうな行いをしていくが、楠木・山下のように相手に感謝されることはなかった。

エレベーターのボタンを押してあげる。
電車の席を譲ってあげる。
キャバ嬢を指名してあげる。
制限時間が迫って焦った楠木はまた、同じように荷物を持った老人が横断歩道を渡るのを手伝うが、相手は感謝しながらも戸惑った様子で、AIは善行と認定しなかった。
そこで知能犯罪者が、人が心から感謝するにはいくつかの基本条件があり、その内の一つがAIに認定されなければならない自分たちにとって、高いハードルになっているだろうことを導き出した。
それは見返りを求めない心。

それはおそらく正解で、急病で蹲る人に救急車を呼んで励ましたペアは確かにしっかり感謝されたのに、内心は日課クリアできそうでラッキーとしか考えておらず、AIは認定しなかった。
それでも昨日クリアできたのは、山下が母親を思って打算なく手を差し伸べたからだった。
死のルーレットに選ばれないため、無罪放免になるために一日一善を課せられている重罪人たちは一体、どうすれば見返りを求める心を封じて他人に優しくできると言うのか。
今日一日豪遊した肥田は、次に選ばれるのは自分だと覚悟を決めて、最後に会っておきたい人を金で呼んだのだが、それもそのはず、相手は自傷行為を繰り返して手首がボロボロの風俗嬢で、捕まる直前に気持ち良くしてもらっていたのだった。
お互いにしっかり覚えていた者同士、肥田は自業自得ながらに親不孝な自分を呪い、そして彼女は今、最後に会いたい人に選んでもらえた喜びに打ち震えて心から感謝した。

そうしてまさかの肥田が日課をクリアすることになり、彼らは二日目を無事に乗り切ることができた。
かに思えたが、結局肥田の手癖の悪さで一人が犠牲になってしまい、最悪の一日の終わりを迎えることになってしまったのだった。
肥田が日課をクリアしたこともそうだが、キャバやデリヘルで遊んだことに目の色を変えたのが性犯罪をするほどに女への欲情が止められない奴だった。
あの金で女を抱いたと知ってすぐさま妄想オナニーした奴が、お誂え向きに訪れたずぶ濡れの生保レディに股間を膨らませるなというのは無理な話だった。

そしてあっさりルール違反を犯して死のルーレットが回り、次に選ばれたのも根っからのクズではない救いようのある重罪人だった。
それだけじゃなく、襲われた生保レディは刑務所から派遣された重罪人たちの死を願う女死神で、楠木の死を最も願っている被害者の妹だった。

姉の彼氏が冤罪などと一切信じず、恨み辛みを募らせた彼女はそれを晴らすためにクズ共の巣に潜り込み、意地でも日課をクリアさせまいとし始めた。
彼女に手を出した途端にまた一人葬られる詰みゲーの中、誰かのために罪を犯した一人がギリギリの状況に追い込まれてしまう。
そして彼女は更に、とんでもない秘密ルールを暴露した…

感想
懲役一善1巻でした。
面白度☆8 黒髪眼鏡度☆8
シグナル100でも虐殺ハッピーエンドでも黒髪眼鏡ちゃんが肝でしたが、この作品でもそこは譲れないようですし、確かにいい味を出しているので思う存分動いて欲しいですね。































