277話
今更ながら、ヘンリー・リー・ルーカスについて語ろう。
彼は現代日本でいえば、親ガチャに大外れした不運な子だった。
彼は幼少期に女装させられたり、ラバを買い与えてもらって仲良くなった頃に殺されたり、娼婦の母が突っ込まれているところを見学させられるオプション要員にされたりと、一生のトラウマになるか母をぶち殺さないのがおかしいようなおぞましい虐待を受けまくっていた。

もちろん、生き永らえたのは運が良かっただけのレベルのシンプルな暴力もあった。
とにかく母のヴィオラは、息子を支配する対象としか見ていなかった。
何とか彼を助けようとした大人もいたが、キチのヴィオラに撃退されてしまい、地獄から抜け出せなくなったヘンリーはやがて、目を傷めた事故をきっかけに母親に止めを刺されて失明し、若くして片目が義眼になってしまう。
それが原因で兵隊入りも叶わず、母から逃れられたのは罪を犯して少年刑務所に入った時だった。

ム所に入っていた時の文通がきっかけで知り合った女性と結婚を前提に同棲していたが、それもトチ狂った母親に突撃されて彼女に逃げられてしまう。
もうババアの年齢に入ったヴィオラに娼婦としての価値はなく、息子に寄生して死ぬまでしゃぶり尽くす腹積もりだった。
母は恐怖の対象で多くを奪ってきた悪魔。
今まで逆らったことはなかったが、大人になってから人生設計を目の前で狂わされたヘンリーは初めての反抗をし、それが初の人殺しになった。

10年後の仮釈放の審査で彼は正直に、娑婆に出たら即座に誰かを殺すだろうと話し、笑えないジョークは受けて釈放された。
言葉通りにすぐ人殺しをしたヘンリーは、あらゆる殺し方を楽しみながら全米を恐怖に陥れる稀代の殺人鬼になった。
その殺人旅の中で負けず劣らずの殺人鬼オーティスと出会い、二人は意気投合して米の恐怖は深まった。
そしてヘンリーは、ヴィオラに支配された我が家に負けず劣らずの腐敗したオーティス家で、オーティスの姪であるベッキーと出会った。
まだ少女で年の差はあっても似たような境遇で、お互いに心の奥底で惹かれ合った。

ベッキーの保護者が相次いで亡くなったのを契機に二人旅に出ても、ヘンリーは変わらず強盗殺人で日銭を補充し、ついに殺害現場をベッキーに見られてしまう。
しかし彼女は恐怖するどころか性的興奮を覚えるほどにイカレ具合の相性が良く、晴れて狂った男女の仲になった。

悪魔崇拝教徒だったヘンリーは組織の伝手でキリスト教の村で潜伏生活を始めたのだが、それがまた大事なモノを失う分かれ道だった。
表向きは彼の妻だったベッキーは同年代の女子と仲良くなってキリスト教に目覚め、篤い信仰心を持ってヘンリーの犯罪を咎めるようになった。

もちろんヘンリーの考えが変わることはなく、享楽的な人生を過ごすためベッキーを元に戻すため、村を出ようと思って一先ず仲直りの為のピクニックへしゃれ込んだ。
しかしまた起こしてしまう言い争い、相容れない考え。
言葉が届かないからと言って手を出してしまったベッキーは、彼にとって悪魔的ヴィオラと重なった。
そして初めての殺人と同じく無意識にナイフを持つ手に力が篭り、刺してしまっていた。

ヘンリーは最愛の人まで殺してしまった、それは果たして真実なのか。
そんな殺人鬼を刷り込まれた千歌は、自分を最愛にしてくれなさそうな最愛の人に手をかけ、衝動のままに殺そうと力を込めた。
しかしそんな殺人鬼モードの千歌を蹴り飛ばして止めたのが、あり得ないがもう一人の千歌だった。



































