彼に背を向けられた剣の乙女は、また足元からゴブリンに這い登られる感覚に襲われていく。
しかしこれからは、ただ眠れない夜を過ごさずに済みそうだった。
ゴブリンを憎んでいる彼が、いつでも殺してやると言ってくれたのだから。

それは現実の目の前に現れた時に限らず、夢の中の少女が怯えている時でもだった。
ゴブリンスレイヤーの名に偽りはないと言い切ってくれた彼の背中を涙に濡れた目で見送った剣の乙女は、子供のように泣きじゃくった。
そして、恐怖から救ってくれた彼に愛を告白した。

女神官たちは他の乗客と荷馬車に相乗りし、ホームタウンに戻りながら、エルフはなんだかんだと今回の冒険も楽しかったと笑顔を見せていた。
リザードマンはゲートの鏡を捨てたことをもったいないと思っていたが、得られた経験を考えればそこまで惜しまず、ドワーフは元々その日暮らしでご馳走を食べられれば文句はなかった。
そんな仲間のやり取りを微笑ましく眺めていた女神官は、眠っているように見える彼の兜の隙間を覗き込んでから、そっとブランケットをかけた。
そして、彼の横で大人しくしているカナリアの羽を見つけ、またほっこりした。

ふと閃いて、兜の隙間に羽を差し込みお洒落をさせる。
疲れている彼に労いの言葉を呟くと、急に彼が喋り出したので狸寝入りしていたのかと驚くが、本当かどうか今起きたばかりだという。
彼は帰ったら商人から聞いた氷菓子を作ってみたいと言い出し、真っ先にリザードマンが食いついて歓喜に尻尾を振るわせた。
食べ物のことならドワーフも黙っていられず、より良く作れるように知恵を出し始める。
それも微笑ましく聞いていた女神官は自分も食べたいと申し出、エルフももう蹴らないことを条件にご相伴に預かることにした。

少し時を遡り、遺跡の天井が崩落した直後。
魔神の残党はゲートの鏡を使った作戦が壊されたことに怒り狂っていた。
ゴブリンに穢された剣の乙女を口汚く罵り、ただただ苛立ちを声に出して荒ぶっていた。
その時、魔神と思しき声が聞こえ、慈悲と新たな力を請うた。
しかし声は否定し、残党の傍に打ち倒された仲間を投げ飛ばした。
直後、堂々と登場の口上を切った冒険者の娘が現れた。
ただ、その身勝手な口上は厳しく注意されたり賛成されたりと、仲間の意見が分かれるものだった。

知られるはずのない潜伏場所が突き止められたことに残党は驚くが、娘はただの偶然だと嘯く。
後ろに控えるのが賢者と剣聖だと気づいた残党はみるみる醜悪な真の姿を現し、主の仇を打たんと襲い掛かった。
まだ最後まで口上を述べ切っていなかった娘はニンマリと笑い、巨大モンスターをすり抜けるように剣を振り下ろした。
真っ二つになって血が噴出すと同時に、勇者参上と名乗ってばっちり決めたのだった。




































