だが山田は早く殺せと急かす。
すると彼はここでも、少し待ってくれと頼んだ。
そして今度は拳を握り締めて振りかぶった。
歯を食いしばった彼は手加減せずに高木の顔面に叩き込んだ。
まともに食らった高木は吹っ飛び、椅子や机を倒しながら床に転がった。
彼の怒りは凄まじく、食いしばっていた歯を離すと友の裏切り行為を口汚く罵った。

彼の怒りは大量虐殺を決行したことに対する怒りだった。
何の罪もない人々が突然保菌者という化け物に変えられ、無残に殺されるか全てを失わされた。
高木にも人生を終わらせられれば怒りを感じる相手くらいいただろうと諭す。
初めて被害者が犯人側に怒りをぶつけた瞬間だった。
そして彼は、これから大量に人を殺していくだろうと予想したのをきっぱり否定した。
これから殺すのではなく、彼はもう大量に人を殺していると思っていた。

保菌者は化け物みたいにされた人間でしかなく、騒動の中で一番悲惨な思いをしている被害者だった。
彼は一時も忘れていなかった。
明るく面白く、ムードメーカーだったいいんちょを殺したことを。
知らない他人ではないいいんちょを殺したことで、彼の精神は一気に削り取られていた。
自分の人生で人を殺すなど思いもしなかった彼の本音を聞いた紗月は驚き、きららはお人好し過ぎる感じ方を呪う。
ただ、らぎ姉には彼が計り知れないストレスを抱えていることに思い当たる節があった。
高校生にして隊長として信頼されているのは、隊員の精神的な疲労をしっかりと気にかけていたからだが、その実、隊員を励ましながら自分にも言い聞かせていたのかも知れない。

何股もしてチャラ男になったことも今なら、非日常に染まり切らないために恋愛を防波堤にしようともがいた結果なのかもしれないと、らぎ姉は思えた。
高木がまた笑ってペースを引き戻そうとしても、彼は言葉を交わす意思がないと言い切って黙らせ、背を向けて座るよう指示をした。
高木が素直に従うと、彼はもう一度山田に頼んだ。
ここは友人だった自分たちの関係に免じて、二人きりにして欲しいと。
山田は逡巡し、確かな殺意を持った彼を信用して出て行った。

二人きりになると彼は銃を拾い、また高木に近づいていく。
モニターの向こうのきららたちが固唾を飲んで見守る中、彼は高木の背後に立ち、ゆっくりと手を伸ばしていく。
肩をグッと掴み、もう一度殴りかかりそうなほど歯を食いしばって呼びかけた彼は、顔をグッと近づけて囁いた。
自分の腰にある拳銃を奪って逃げろと。
言葉もなく驚く高木に構わず、冷静さを湛えた目の色になっていた彼はもう一度繰り返した。
逃げろと・・・

感想
インフェクション122話123話でした。
ここでようやく、榎並と高木の接触したフラグが回収されそうですね。
小鳥は初登場時から絶妙なお色気要員要素が強いので、いい加減心休まって欲しいですが、きっとそれは騒動が治まった時になるでしょうね。
果たして、晴輝の真意は友情なのか独自の目的のためなのか?
https://www.kuroneko0920.com/archives/53790










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