3話
いきなり服を脱ぎ、恥ずかしげもなく全裸になって気味悪く笑うるるなの数値は、なぜかサクラと同じ値を示していた。
「良かった、入れた」
そう言って微笑むるるなは、今初めて見たように胸を触り、大きくないサイズをからかうように彼に同意を求めた。

その目、数値、言葉。
彼はるるなの中にサクラの人格が入っているんだと気づいた。
るるなの身体を支配したサクラはいきなり部屋の中に駆け入り、ベランダへの窓を開け、柵の淵に飛び乗った。
恐ろしいほどに月が綺麗に見える今宵、月をバックに振り返るサクラは神々しく思えるほどに見栄えが良かったが、これからしようとしていることを思うと見惚れている場合ではなかった。

しかし玄関で驚愕している彼が間に合うはずもなく、サクラはるるなの身体で宙を舞い、背中から飛び降りた。
彼が急いでベランダに走り出、下を覗き込むと、るるなの身体はすぐ下にあったプールに落ちて無事なようだった。
身体が無事なのは良かったが、しかしサクラの目的は肉体を再起不能にすることではなかった。
優雅に水面に上がってきたサクラはプールから出ると、子供が心からはしゃいで楽しんでいるように笑い声をあげながら、また走り出した。
そのままマンションの敷地外に飛び出していく。
サクラの目的は飛び降りではなく、全裸で外を疾走してるるなのアイドル人生を終了させることだった。

それに気づいた彼は咄嗟に近くにあったベッドのシーツを掴んで後を追いかけ、おそらく誰にも見られていないうちに追いついて包むことができた。
彼が怒り交じりに諭そうとしても、サクラはいつまでも子供みたいにバカ笑いし、まるで話が通じない。
それでも彼は言葉をかけるしかなく、自分が目的なら誰にも邪魔されない二人きりで話をしようと誘う。
すると、二人きりというワードに反応してサクラはピタッと笑いを止め、とても嬉しそうに振り返った。

メンヘラ過ぎる笑顔に彼は逃げ出したかったが、さすがにその選択肢を実行できなかった。
るるなの部屋に戻ると、サクラは素直に身体を元に戻し、身体を戻された方は気を失うのがデフォルトなのか、本来のるるなはベッドで穏やかに眠った。
だがサクラは、異常な好意を示す数値により、寝室のドアをビニールテープでがちがちに目張りし、他の女の吐く息にさえ拒否感を示した。
彼はまた異常な行動に引いたが、謎を少しでも解消するためにしっかり話すことを決めた。
サクラ本人なのか?
身体を乗っ取る能力?
なぜ周囲の女を狙うのか?
約束とは?
サクラ本人だと語る彼女は目覚めたのは最近で、人の眼を見ると身体を借りられるのだという。
俄かには信じがたい彼はサクラ本人なのを確かめるため、赤の他人では簡単に知りようがない質問をしてみたが、サクラはスラスラと即答していく。
そして最後に約束がどんな内容なのか知りたい彼は、逆に相手に言わせることで知ろうとした。
するとサクラは悲しげに眉を歪めたかと思うと、偽物だと疑われることに少し怒りを感じたのか凄んだ感じになるが、それでも数値は全く変わらない。
結局約束の内容は言わず、また婚姻届に署名を催促してきた。

約束は結婚?
しかし覚えのない彼は、この訳の分からない女をあわよくば利用できればと思い、一芝居を始めた。
あくまで結婚したくないではなく、できないのをアピールしつつ話を切り出したが、サクラは名前を呼ばれたことに興奮して身悶え、もっともっととおねだりするので、彼はある意味毒気を抜かれて自分のペースを掴み辛くなった。

気を取り直して、彼は幼少期から不遇の時代を過ごして人間関係にも恵まれなかったことを明かし、我慢できずに暮らしていた孤児院を飛び出して頼れるもののない地に逃げた結果、生きていくために膨大な借金をしてしまったと語る。
その借金を結婚する相手に背負わせるわけにはいかないという、尤もな理由で結婚できないと言い訳し、周りの女たちは月100万を下らない額を援助してくれているので、彼女たちのおかげで生きていられるとのたまう。
そして彼女たちに手を出させないため、彼女たちを傷つけるのは自分を傷つけるのと同義だと言い切った。

果たして黙って聞いていたサクラは素直に「わかった」と答え、それだけで部屋を出て行った。
彼は拍子抜けしたが、周りの女に手を出さなくなるならそれで良し、嘘を真に受けて金を貢いでくれるなら尚良しだとほくそ笑んだ。
確かに借金はしていたがとっくに完済していて、今はリッチな生活を送りたいだけだった。
後日、相変わらず上々の数値を保っているユメノに会った彼は、プレゼントされた服を着て行って喜ばせ、特に変わった様子のない彼女に安堵した。

るるなも乗っ取られた際の記憶はなく、エミの精神も落ち着いていっている。
もうサクラがもたらす危険はないだろうと思うが、一先ず鍵を取り替えるためにユメノを部屋に誘った。
そして部屋に入って取りあえずテレビをつけた直後、ユメノが寝室にずっしり重さのあるダンボール箱があるのを見つけてきた。

彼にも見覚えのないそれをユメノが開けて中を確かめると、大量の札束が入っていた。
そしてテレビでは緊急速報ニュースが流れ始めた。
3億円事件を彷彿とさせる現金輸送車からの強奪事件。
関連していると思われる動揺の事件はこの1週間で3件になり、計3億円を超える被害額。
彼はなぜか自分の部屋にある強奪されたとしか思えない大量の札束を見て、青ざめた。
もちろん、能力を使ったサクラの仕業だった。

感想
ドクザクラ1話2話3話でした。
サイコホラーテイストな新作が始まりました。
長い眠りのおかげで特殊能力に目覚めたみたいですが、どうして異常なほど主人公に好意を抱いているのか、その理由に期待したいと思います。
https://www.kuroneko0920.com/archives/58853


































