6話前編
自分が金を強奪した犯人でないことを証明するため、サクラの侵入ルートを暴き、サクラ本人を捕らえて監視カメラの映像を手に入れるためにキョウコを利用することにした。
彼はまず、キョウコに10代かどうかを訊きつつ、大学イベントの企画で可愛い子を探しているのだと切り出したが、数値がマイナスの彼女は苛立ちを露わに、クサいナンパはお断りだとにべもない。
そんな態度に構わず、彼はキョウコのスマホケースに話題を移した。
母親とCDのことで揉めていたのは、そのケースに関係あるものだろうと指摘すると、キョウコは更に苛立って掴みかかってきそうだったが、彼は平然と自分も好きでCDを持っていると明かした。
それも好みを合わせてほだすナンパの常套手段だろうと言い返し、全く信用しないキョウコ。

彼が否定しようとすれば一気に頭に血が上り、胸倉を掴んでそんな安い女じゃないと怒りを滲ませる。
彼はあまりの剣幕に気圧されつつも、本当に好きなのは否定せず、どれが好きなのか知ろうと一つずつ挙げていく。
品川?五反田?浜松町?
三つ目であからさまに反応してしまったキョウコは、彼が薄ら笑いを浮かべたのに激昂し、机を叩きつけた。
自分の見た目と音楽の趣味が合っていないことを自覚しているキョウコは、それをバカにされたと思い、怒りのままに捲し立てた。

彼はそれでも飄々と笑顔を絶やさずようやく一歩引いたが、わざわざ煽るように「今日の事は母親に言わないでくれよ」と釘を刺した。
キョウコはまた大声を出して怒りを露わにするが、彼は年上の余裕とばかりに今度は強い口調で「返事は?」と促し、今から起こることは人には言うなと再度念を押した。
直後、小岩るるなとマネージャーの米村がエントランスに入って来て、彼に声をかけた。
るるなは山手線29というグループの浜松町担当として大人気だった。
そしてキョウコが好きなのは、まさに山手線29で浜松町担当の小岩るるなだった。

彼氏の影を疑われたるるなの為、彼は大学のイベントを持ちかけた企画担当者の顔を装い、今日ここで会う約束を取り付けていた。
そしてるるなが目の前にいることで感動して理解が追いついていないキョウコに構わず、彼は今日の本題が、大ファンの彼女を山手線29に紹介するためにご足労願ったのだと言い出した。

寝耳に水のキョウコは、さっきまでの勢いはどこへやら、ずっと硬直して視線で成り行きを見ていることしかできない。
当然、米村は加入したいならオーディションを受けるしかないと答えたので、彼は予想していた答えに残念そうな笑顔で返し、せっかくだからとるるなに握手を頼んだ。
そして、憧れのるるなと握手会でもないのに手を握られて応援されたキョウコは、一気に舞い上がった。
オーディションなんて考えてもいなかったが、瞬時にるるなと一緒にステージに立っている妄想を膨らませると夢心地になれた。

その時、米村が人目につきやすいこの場所で話しているのを心配したので、彼は抜かりなくキョウコに指示した。
大好きなるるなが困ったことにならないよう、監視カメラのデータを後で部屋まで持って来て欲しいと。
キョウコは真っ赤なままで、素直に頷いた。
キョウコがるるな推しだったのは偶然の幸運だったが、結果的に録画データはるるなの名前を出せば容易くゲットできる状況になった。
そして面倒に巻き込んで謝るるるなにも、しっかり好感度が上がるようにフォローを入れた。
監視カメラデータの問題をクリアした彼は、あえてマンションの正面ではなく裏の非常階段から自分の部屋がある階まで歩いて戻った。
部屋で待ち構えていると、程なくインターホンが鳴らされた。
彼が対応せずに無視していると、鍵が開けられて誰かが不法侵入しようとした。
鍵を破壊するでもなく開錠して無断で入ろうとしたのは、キョウコの身体を乗っ取ったサクラだった。




































