157話
轟の技がかけられる直前、エリックは心中で自分語りを始めた。
神と出会ったエリックは仲間集めの任務を託された際、自分の体験を相手の脳に送り込んで理解させるという特殊能力を授けられた。
自分を知ってもらうためのそれを使い、しっかり意思に賛同してくれる仲間をコツコツと集めていった。
選ぶ人間の条件は、このままの世界では心から幸福になれない者だった。
4年かけて仲間を集めていざ仙台に乗り込んだ後、エリックの仕事は神の計画が恙なく進行していくのを眺めることだった。
国をも翻弄する神の御業の手伝いをできたことに誇りを抱き、今日に至った。
仲間にとっては初任務だが、全て成功すると知っていたエリックに懸念などなかった。
しかし今、天宮博士の息子だけでなく、その部下の武道家に計画を邪魔されている現実に驚愕しながら、がっちり頭を掴まれていた。
指示通りに撃たれた銃弾はくるっと回りながら宙に浮いたエリックにも、屈んだ轟にも一発も当たらなかった。

エリックが宙に浮いたのなら好都合とばかりに兵士は撃ちまくるが、まさに目にも止まらぬ速さで右に左に躱す轟は距離を詰め、一人の足を掴んで軽々と振り回していく。
もう一人は全く弾が当たらないことに焦り、自分たちの動きもエリック動揺把握されている可能性に思い至った。

それが分かったとて何が出来るわけでもなく、仲間が弾丸のように投げ飛ばされて来た。
兵士は仲間の肉弾を屈んで躱そうとするが、人の限界を越えた轟は自分が投げたそれより速く飛び上がり、二人まとめて踏みつけたのだった。

二人同時に無力化した轟は、エリックが地面に激突する前にキャッチした。
おそらくほんの数秒の出来事だった。
あり得なさ過ぎる動きにエリックは戦慄き、シンプルになぜだと問うた。
さすがに息を荒げている轟は呼吸を整えてから、さも大したことなさそうに言い放った。
今が自分の全盛期らしいと。

もう小細工できなくなったエリックはヤケクソでポケット中のアレを使おうとするが、今の轟に見逃してもらえるわけがなく、ガツンと殴られて指を折られた。
轟はあくまで冷静に、もう計画が成功することはないし、神が神と呼ばれることはなく大量殺人犯になる未来しかこないと諭した。

エリック歯を食いしばり、否定しようとした。
しかし、言葉の代わりに溢れ出てきたのは男泣きの涙だった。

悟った轟は一言、決着だと言った。
直後、エリックは真後ろから何者かに話しかけられ、ビクっと反応した。
急かしてくる何者かの姿は全く見えず、声もエリックにしか届いていないが、その反応を轟は見逃さなかった。
一瞬エリックは神かとも思ったが、すぐに違うと分かった。

何者かは任務失敗しそうなエリックを見ていたらしく、この緊急事態に馳せ参じて自分がおいしいところを持っていこうとしていた。
その物言いや態度で誰か気づいたエリックは、普通に声を出して強く言い返した。
轟は発狂したのかとも思うが、エリックが確かに何かを認識して話しかけているのが分かった。
何者から後ろからエリックのジャケットを持ち上げ、ズボンのポケットに手を突っ込みアレを取り出していく。
轟には独りでにアレが出てきたようにしか見えず、まるでポルターガイストのようだった。
何者かはエリックの指紋だけをしれっと拝借し、ロックか何かを解除した。
ふわふわと宙に浮いて見えるアレ。
それはどこか、注射器か、毒吸いのような形をしていた。

































