158話
アレを奪われたエリックは更に油汗を噴き出していく。
姿なき高木はあの人の恩に報いるために自分に使おうとしていたエリックの覚悟を見抜き、それをあえて阻止しようと、まだ生きている兵士の一人に使おうと言い出した。
直後、エリックが激昂して大声を出したおかげで轟は訳が分からないなりに、見えない何かからアレを取り返す必要があると判断し、渾身の突きを繰り出した。
見えない者にとっては、まさに虚空を打ったようにしか見えなかった。
実際は、高木の顔の横すれすれに拳があった。

どんどん人外じみていく高木は穏やかな心持で、軽く持ったそれを作動させ、プシュッと何かを撃った。
BB弾よりも更に小さな何かは真っすぐに飛び、ぐったりしている上側の兵士の体内に飲み込まれていった。
懐中電灯の光が吸収されたようにそれが消えた直後、兵士はいきなり血を吐いて苦しみ喘ぎ始めた。
まるで保菌者に変異していくような急変。
だがそうではないのか、苦しみながら片目がドロリと零れ落ちた。

片目が落ちるや否や、今度は体中がブクブクと膨れ上がり、あっという間に人の形を失っていく。
奥の手を使われたら全滅必至だと忠告されていた轟はとにかく、最善の一手は何かと考えるがどれが答えかなど分かる訳がなく、その間にも兵士は山のように巨大化していく。
轟は一先ず、エリックの手を引いてその場を離れた。

その頃には、駐車場の方でも異変がはっきり見え、動揺が広がり始めた。
保菌者の首を落としたばかりのながみんもぶくぶくと大きくなっている異様な保菌者に気づき、はたと思い出した。
その様相からして、晴輝に聞いた例のアレかも知れないと。
同時に轟も、同じものを思い浮かべた。

それを間近に見てきたきららも、恐怖の記憶を思い出した。
奥の手を注入された兵士は、晴輝たちを散々苦しめたメットに姿を変えたのだった。
ここでも喜んだのは、いつか出会ったら戦いたいと願っていたながみんだけだった。

避難民がざわめく中、初めてメットの最終形態を見た麗が慄くと、きららはしっかり気を引き締めていつでも逃げられるように離れないでと念を押した。
麗は一度倒したのなら大丈夫だろうと返すが、あの時は人類最強の神城がいて、ここにはいないと言い返されると、一気に恐怖がこみ上げた。

メットを倒せるのは、この場に一人もいなかった。
小山のように大きなメットは動き出し、声もなく見上げてくる避難民を見下ろすと、地響きを出して一歩近づいた。
もちろん誰もどうすることもできず、ビルのように巨大な片手が振り上げられるのを見つめた。
きららは姉を促し、全速力で走った。

自分だけは死なないと思っているのか、手の影に入った者のほとんどが動かないまま、何十トンもありそうな肉の塊に押し潰されるのを黙って待ち続けた。
指の隙間に入って偶然助かった人々は、真っ赤な間欠泉を浴びたようだった。
感想
インフェクション156話157話158話でした。
ながみんと轟は突き抜けてぶれないですね。
ただながみんパートでちらっと出た声は、まさか神の声なのか。
透明人間は何でもありの高木でしたが、奥の手がメット製造ウイルスだけなのか。
https://www.kuroneko0920.com/archives/65080
































