210話
湯から上がって暖簾を潜って外に出た美依那は、冬雪に釘付けになると思わず相手の名を呟いた。
続々と出てきた千歌たちが足止めを食らっていると、冬雪の連れもぞろぞろとやって来た。
美依那は一目で気づいたが、冬雪の方は気づいておらず、適当な言い訳でごまかしている間に座長の夏樹が役者らしい言葉で自己紹介した。

夏樹夢之丞に花形の夏樹冬雪。
座長はすかさず今月までここいらでやっている講演のポスターを渡して営業をかけ、スマートに暖簾を潜っていった。
メデューサたちは冬雪の花のような美しさに見惚れるが、男湯の暖簾を潜っていったことに度肝を抜かれた。

ともあれ数奇な出会いになった美依那は、東犀病院の院長と息子のしげおが大衆演劇ファンだったことを挙げ、観に来る可能性を考えて観劇に行ってみようと提案した。
患者としてよりも外で会う方が都合よく立ち回れ、本当の人となりが分かりそうなのは確か、観劇に行く案に反対はなく、一先ずは美依那が役者仲間たちに正体がバレないように気を付けるだけだった。
翌日、予定通りに劇場に足を運んだはいいが、美依那が言っていた通りに管理人の安藤もかなりの大衆演劇ファンで既に開場を待つ列に並んでいた。
千歌たちは気に入られるためにそつなく挨拶に向かうと、若い演劇ファンに気を良くしたババアは率先して保護者よろしく席を借りるところまで案内してくれた。

程なく場内が暗転すると、まず登場したのは花形の冬雪で、現代の音楽と伝統の舞を合わせた迫力満点の剣舞を披露し始めた。
ババアがハマるのも分かる役者の花と内容の面白さ。
初観劇の千歌はキャッキャと見惚れるが、美依那は憑りつかれたようにジイっと見つめ続けた。
すると程なく、無粋にも偉そうにやかましい足音まで立てながら途中でオラついて入ってきた男がいたのだが、そいつが目的の東犀しげおだった。

しげおはババアみたいな常連には評判の悪い客で、今みたいにわざと遅れて来ているとしか思えない程に毎回遅刻し、予約の最前列まで偉そうに歩いていく迷惑客だった。
そうこうしているうちに一部が終わって休憩時間になると、しげおが離席するや霧子と瀬里も素早く後を追うことに。
千歌と小夜子は別動隊で動こうとするが、美依那はどこに行ったのかいつの間にかいなくなっていた。
しげおのことは後回しに勝手知ったる劇場内でジュースを買って普通に休憩していた美依那は、かつて自分がいた舞台を観て変な疲れを感じていた。

だから身体でも覚えている基本の動きをしたくなり、誰もいないはずのその場で流石の舞踊を舞ったのだが、まさか冬雪に覗き見られているなど知る由もなかった。



































