7話後編
いきなりエミの手を掴んで連れ出したアツシは、帰宅時間になり始めた電車に飛び乗った。
夕焼けに街が彩られていく中、結構空いている車内で座れて良かったなと彼が話しかけても、エミの機嫌はまだ直っていないようで、やはり小手先のご機嫌取りにほだされる気はないらしい。

ツンツンしているうちに青梅駅に着くと、彼は降りようと声をかけた。
振り返ってエミが外を眺めると、観覧車が夕焼け色に染まろうとしていた。
出口側のドアが開いて二人が出ようとしたその時、我先にと乗って来たスーツの男がエミにぶつかりそうになり、彼女は大袈裟に見えるほど大きく避け、彼にぶつかるほどだった。
スーツの男はマナーの悪さを軽く謝ったが、そんなことは関係なくエミは怯えているようだった。

汗もかいて顔色も悪くなったエミ。
彼は改めてエミと出会った頃を思い出し、彼女といる時に気をつけなければいけないことを思い出した。
最初にお互いを見知ったのは、エミが落としたペンを彼が拾おうとした時だったが、彼女は感じ悪く拾わなくていいと吐き捨てた。
驚いた彼は素直に彼女の落とし物を彼女自身が拾うのを見るだけにした。
特に嫌われることをした覚えもなかったが、とんでもなく嫌われている数値を示していたからだ。

初めから自分に好意を抱かないのはそれほど珍しいことじゃなく、いつもなら深入りしようとはしないパターンだったが、エミは他とは事情が違っていた。
エミは彼限定で悪意を抱いている訳ではなく、男というだけで嫌っていた。
それが単なる悪意ではないと感じた彼は、嫌われていても取りあえず言葉を交わした流れで、指摘してみた。
男が怖いんじゃないのか?と。

明らかに図星を突かれた反応で誤魔化したエミは、そう訊かれただけで心配になるほど怯え、小さく震え出した。
いわゆるストーカーに近い被害に遭っていたエミの姿が、彼はかつての自分と重なって見えたのだった。
だから彼がエミといる理由は、もちろん金銭的なものもあったが、それだけじゃなかった。
観覧車の乗り場に着いても全く人が並んでおらず、二人は待つことなく乗り込んだ。
平日を選んで人混みに被らないよう気を使った彼は、綺麗な夜景が見渡せる頃になったところで、色々気分を悪くさせたことを素直に謝った。
少し困り顔で返事に困ったエミは、神妙にまた謝ろうとする彼を遮り、授業のサボりは確かに怒っていたが、それ以上に怖かったんだと打ち明けた。

彼と連絡が取れずに学校でも見なくなったことを怖く感じたのは、やはりストーカーが原因だった。
加害者はアツシの機転で捕まえられ法の裁きを受けたのだが、その後、小さくない事件に発展して世間でも大学でも一時騒がれることになった。
大学ボランティアサークルで6人逮捕。
罠にハマった女子生徒が何人か辞めていて、SNSでもトレンドネタに上がるほどだった。
エミも被害者の一人ではあったが、持ち前の正義感を発揮して犯人たちの脅しに抵抗したのだった。
それで主犯のイカれた男はエミを逆恨みして、逮捕される直前に生配信で出所後に復讐しに行くことを宣言し、不気味な高笑いをした。
その声が頭から消えないエミはトラウマを植え付けられ、インスタ裏アカエロ自撮り流出の件でも、思わず主犯の男を思い浮かべて怖くなった。

その矢先、彼と連絡が取れなくなり、何かあったんじゃないかと思ったのだった。
涙ながらに心配し過ぎて怖かったことを打ち明けたエミ。
自分の保身ばかりで大切に思ってくれている人を傷つけたことを思い知った彼は思わず抱き寄せ、久しぶりに思える濃厚なキスで唇を塞いだ。
そして、エミの思いに感謝した。
吸い込まれそうな瞳で大好きだと言われたエミが彼を嫌いになれるはずがなく、一時降下した数値は100に届きそうな勢いで急上昇したのだった。

ツンデレがえげつないほど可愛いエミに、まだ出所してない以上アイツは何もできないし、出てきた時は自分が何もさせないように守ると約束した。
それでまた救われたエミは、この後の予定を自分が行きたいところに連れて行くことにし、腕を組んでラブラブで夜の街を歩き出した。
彼は一安心したが、今日一日しつこく尾行してくる悪意を向ける男を捨て置けず、素早く踵を返して声をかけた。
カメラ片手に盗撮もしていた男は逃げる素振りも見せず、堂々と警察手帳を見せ、捜査一課の山之内だと自己紹介した。
3億円強盗事件の担当をしているらしく、もちろん彼が両国アツシだと分かった上で捜査協力を求めてきた。
驚愕した彼は鼓動が急加速したのが分かったが、無理やり落ち着きを取り戻し、平静を装ってなぜ自分に話を聞くのか全く分からない体で、逆にどこまで捜査が進んでいるのか知るチャンスだと切り替えた。
しかし、いきなりサクラとの関係性を訊かれ、平静でいるのが難しくなった。




































