8話前編
グッと身体を起こしたアブラゼミは共鳴室を使って全力で鳴こうとした。
ここで鳴かれたら脳と内臓をやられて一発アウトだと思った睦美は、先が鋭くなっている枝を拾い、一気呵成に立ち向かっていった。
責任を感じて自分がどうにかすべきだと思い込んでいる睦美は、タイミング良く開いた腹部の隙間に枝を挿しこみ、ぐりんと捻った。

外骨格に覆われた昆虫の中でも、直接内部を攻撃できる数少ない構造のセミ。
腹弁の隙間から共鳴室まで挿しこみ、直接破壊したのだった。
全力で鳴かれる前に間に合った睦美は安堵の息を漏らした。
しかし、倒れたアブラゼミは最後の悪あがきとばかりにギギギギと鳴き始めた。
すると、どこからともなくセミたちが飛び出してきて、睦美たちの周りを乱舞し始めた。
命の危機を感じたアブラゼミをそれを知らせる鳴き方をしたせいで、周りのセミたちが反応し、パニックを起こして飛び回り始めたのだ。
鳴き声で仲間に危険を知らせるセミのこの行動を、セミ採りの経験がある者なら少なからず見たことがあるだろう。

このままだといつ激突されるか分からず、共鳴室の脅威を退けても危険なのは変わらない。
とにかく急いで電波局の建物に避難するため走り出すも、セミたちのパニックは治まる気配がなく、木にぶつかりお互いにぶつかりで一匹が地面に落下すると、そのまま羽ばたいて甲斐を追いかける形になった。
全力で走ってもスピード差は歴然。
追いつかれると思ったその時、睦美が身を挺して飛びかかり走行線上から甲斐をどかすことに成功した。
しかし、勢い余った睦美が崖下に滑り落ちてしまう。

大怪我をしてもおかしくなさそうな感じで滑り落ちていった睦美は、何事も無かったように立ち尽くし、あるものに釘付けになっていた。
月の光が木漏れ日のように降り注いでいる中にくっきりと巨大なセミの抜け殻が残っていて、それに見惚れていたのだ。

しかし、生命の神秘をゆっくり見物している余裕はなかった。
甲斐たちも下りてくるとすぐに電波局に走り、そこからは無事に辿り着くことができた。
頑丈な建物中に避難して、一息ついたところで、睦美はセミたちが落ち着くまで20分も待てば十分だろうと伝えた。
しかし、その後で千歳たちの所に戻ろうという意見には断固反対し、ここまで来たのだから一気に最後までやり遂げるべきだと捲し立てた。
確かに陽が昇ればまた身動きができなくなり、葵を待たせ過ぎるわけにいかないというのも尤もだが、今の睦美は焦りで視野狭窄になってしまっていた。



































