199話
小鳥はどうしても分かってしまった。
彼の感情がなぜ激しく波打ったのか、説明もせずにマンションに駆け込もうとしているのか。
励ましたらしっかり立ち上がってくれたのは、特効薬で助けたい大事な人を助けられる希望を得られたからだと。

その大事な人、らぎ姉は穏やかな顔で眠っていた。
彼はすぐに特効薬をお腹から注入し、一秒がとても長く感じながらすぐに焦り出した。
早くも効果があるのか不安になって彼が取り乱すので、小鳥は時間がかかるだけで、情報エネルギーの仕組みを説明しようとするが、今の彼は冷静に理解できる状態ではなかった。
そうして慌てふためく彼を、ながみんは冷ややかな目で眺めた。
程なく、らぎ姉は目を覚ました。
やっとホッとできた彼が顔を覗き込んだ直後、大きく咳き込んだらぎ姉は悪魔に憑りつかれたように痙攣し、激しく苦しみ出した。

一瞬で血の気が引いた彼はさっきの比じゃなく慌て、特効薬で逆にえらいショック症状が出てしまったのかと思った。
胸を抑えて苦しむらぎ姉は、しかし少しずつ呼吸を整えて自らを落ち着かせていくと、激しい動悸を止めた。
さすがに顔色は悪いようだが大丈夫だと意思表示できるほどで、仮死状態から完全に脱したようだった。

それでまた今度こそちゃんと安心できた彼は彼女の名を呼びながら寄り添い、吾子が初めて病気をしたようにこれでもかと心配し、何かと世話を焼きたくてあくせく動こうとし始める。
それよりもらぎ姉は、保菌者騒動を終わらせたからか、それ以外の方法を取ったのか、なぜ自分を助けることができたのか訊ねた。

暗い表情にまた戻った彼は、結局母を見つけることもできないまま特効薬を持って来てくれた小鳥のおかげだと答えた。
するとまだやるべきことがあるらぎ姉は頑張って立ち上がってから、それ以外の方法で良かったと彼に言ってあげた。
それでフッと気が抜けた彼は自然とらぎ姉に抱きつき、やっと本音を搾り出すことができた。
今までのは全て強がり、母が世界中の敵で歴史上の極悪人も霞むほどの存在だとしても、殺したくなかったと。
自分の手で母親を殺すなど、どれだけ強くなろうが考えるだけで辛くてしょうがないことだった。

彼が最もつらいときに何もしてやれなかったらぎ姉は、小さく震える彼を抱きしめ返した。
弱音を吐いて泣いてスッキリした彼は気持ちを切り替えると、らぎ姉も蘇って最高にいい気分の勢いに乗り、既に母の目的を分かっていたことに思い至った。
神城が助けに来てくれた時に母に言葉をぶつけた時、母は沈黙を持って正しいと認めていた。
息子を殺さないのじゃなく殺せない、なぜなら保菌者騒動の核が晴輝の成長を促すことだから。

つまり彼はまだ母を殺さなければならないと決まった訳じゃなく、保菌者騒動の目的が何なのか訊き出す余地が、核である彼にだけ残されているのだ。
だから彼は、小鳥が香里から預かったものを見せてもらうことにした。



































