75話
仁奈の助力で組長たちを出し抜いたメデューサたち。
一人残されて絶望に暮れ行く小夜子の前に千歌は無事な姿で現れた。
千歌がベッドに放置された小夜子に近づくと、彼女はポロポロと涙を零し始めた。
千歌は痛みか酷い扱いを思い出したのかと心配になるが、小夜子の涙は感動のそれだった。
神崎に言われ、死んだと諦めかけていた千歌が、こうして無事な姿で助けに来てくれた。
それに対する喜びの涙だった。

小夜子がどれほど追い詰められていたのか思い知った千歌は一瞬何も言えななくなり、ぶっきらぼうに自分が死ぬわけがないと答えた。
千歌はまず足に嵌められた手錠を外し始めた。
実は小夜子を拘束している手錠は美依那のもので、だから外すのも訳がなかった。
確かに閉めたはずのドアから悠々と入ってこれたのも、仁奈が密かに隙間を開けてくれたからだった。
これより少し前、仁奈と引き合わされた千歌は、ゴスロリの少女が組長の息子だと聞かされて度肝を抜かれていた。
霧子とイチャイチャパフェを食べている仁奈から、美依那は同じ匂いを感じ取る横で、千歌はすぐに仁奈が父親を殺す作戦に加担するのが信じられなかった。
すると仁奈は、親を殺したいほど憎んでいるように微笑みで仄めかした。
殺人鬼として共感できる思いかどうか。
その答えが返って来る前に、霧子からもらった大事なものに比べたら、父親の命などどうでもいいと心からの笑顔を零した。
当然霧子の大事なものが気になった二人が訊くので仁奈は答えようとするが、ビッチキャラで通っている霧子はついさっきまで処女だったなどと知られるわけにはいかず、虜にした仁奈を殴って止めた。

ともかく、確固たる信頼がなくても、今は一分一秒を争う。
千歌は仁奈を作戦に組み込むことを受け入れるしかなかった。
そうして今、小夜子を助けに来ることができた千歌は、組長たちが霧子たちが待ち伏せしているところに誘い込まれているだろうと説明し終わった。
小夜子の枷も外れ、さっさと逃げ出そうとするも、腹の傷は見た目以上に深く、一人で歩くのもままならない状態だった。
小夜子は肩を貸してほしいと頼んだが、千歌はここで愛に応えるためか、堂々とお姫様抱っこで抱え上げて見せた。
華奢な体つきに似合わず余裕で持ち上げ続け、バレエの汎用性を証明して見せた。
廊下に出て人影がないのを確認すると、エレベーターのボタンを押してまだかまだかと待つ。
そうしている間にも小夜子の傷口から血が滲み出て呼吸も荒くなってくる。
千歌はどんどん焦って早く女医に見せなければと思っていると、エレベーターに誰かが乗って上がってきた。
上がってきたのは先に組員の様子を見に行った石黒たちだった。
他の幹部や多くの組員が殺されていたのを確認して歯噛みしていたが、死体が見つからない谷の安否は知りようがなさそうだった。
3人が部屋に戻るのをやり過ごした千歌は、またエレベーターが戻ってくる時間を惜しみ、誰と鉢合わせするかも分からない箱を使う危険性を避けるため、視界に入った外に出るドアに目を付けた。
一方、デブと激しい戦闘を繰り広げて少なからずダメージを負ったあやは、浴場で臭みを落とし、痛む部分をさすっていた。
ただ、こんな顔が歪む痛みも懐かしささえ感じるレベルのものだった。

他の誰もいない湯舟で泳いでいると、誰かが入ってきた。
それは、同じく臭みを落としに来た神崎だった。
お互いにメデューサとヤクザだと素性は分かっていて、視線を合わして剣呑な空気に包まれそうになる。
そして、湯舟に入ろうとする神崎にあやから声をかけた。

ただ殺し合いを始めたいわけではなく、体も洗わずに入ろうとしたのを注意しただけで、神崎も素直に謝った。
そして、妙な取り合わせの二人でゆっくり湯に浸かり始めた。
二人とも無駄な殺し合いをするつもりはなく、神崎はもう変態ばかりの職場を辞めて新たな仕事を探す気でいた。
そうして無言の時間がしばらく過ぎた頃、先にあやが上がった。
もちろん先に上がったのはデブの体液だらけの服を放置し、神崎のものを拝借したいからだった。
神崎が上がって自分の服が盗まれたことに気づいた頃、あやはぶかぶかの胸元でまた胸の格差を意識しないように努め、仕方なくあやの服を着ようとしていた神崎はとてつもない異臭に顔を背けていた。

結局全裸で出るわけにもいかずにまた臭い服で出るしかなく、ピチピチすぎるサイズの違いにもイライラが募った。
そんな時に慌てた石黒から、組長たちと小夜子が消えたことを教えられた。
ボディガードとして責任を追及されるのはさて置き、消えたことにあやが関係していそうではないと考えた。
かと言って小夜子があの状態から起死回生の一手を打てたとも思えず、なら第三者が助けに来たしかない。
つまり組長と烏丸を倒すかどうかできた相手なら楽しめると思って、臭い服を筋肉の膨張で引き裂いた。
千歌は救命ボートの中に潜んでいた。
一旦小夜子を寝かし、船のあるあるで設置されていた救命キットを発見し、応急処置をすると小夜子の表情は少し和らぎを見せる。
しかし、失血量を考えるとやはり早く女医に見せてちゃんとした治療をしてもらう必要がある。
その時、小夜子が千歌を呼んで不意打ちのキスをした。
それはまるで、今すぐ本気で愛し合いたい合図に思える濃厚なものだった。




































